日语 かしらの雪

来源: wanghongjie | 更新日期:2015-04-19 06:08:26 | 浏览(18)人次

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かしらの雪


 二十一日(はつかあまりひとひ)。卯(う)の時ばかりに船出(い)だす。みな人々の船出づ。これを見れば、春の海に秋の木の葉しも散れるやうにぞありける。おぼろけの願によりてにやあらむ、風も吹かず、よき日出で来て、漕ぎ行く。この間に、使はれむとて、付きて来る童(わらは)あり。それが歌ふ船唄、


  なほこそ国の方は見やらるれ、わが父母(ちちはは)ありとし思へば。帰らや。


と歌ふぞあはれなる。


 かく歌ふを聞きつつ漕ぎ来るに、黒鳥(くろとり)といふ鳥、岩の上に集まり居り。その岩のもとに、波白く打ち寄す。楫(かじ)取りの言ふやう、「黒鳥のもとに、白き波を寄す」とぞ言ふ。この言葉、何とにはなけれども、物言ふやうにぞ聞こえたる。人のほどに合はねば、とがむるなり。


 かく言ひつつ行くに、船君なる人、波を見て、「国より始めて、海賊報いせむと言ふなることを思ふ上に、海のまた恐ろしければ、頭(かしら)もみな白けぬ。七十(ななそ)ぢ、八十(やそ)ぢは、海にあるものなりけり。


 わが髪の雪と磯辺の白波といづれまされり沖つ島守楫取り、言へ」


(現代語訳)


 (正月)二十一日。午前六時ごろに船を出す。人々が乗っている船はみな出る。このようすを見ると、春の海に秋のこの葉が散っているようだった。並々でない願をかけたおかげだろうか、風も吹かず、よい天気になって、船を漕いでいく。 このようなときに使ってもらおうとして、ついてきた子どもがいる。その子どもが船歌を歌った。

 今となってもやはり故郷のほうへ目が向いてしまう。自分の父母がいらっしゃると思うと、帰ろうよ。

と歌うのがしみじみと心にしみる。

 このように歌うのを聞きながら船を漕いでくると、黒鳥という鳥が、岩の上に集まっている。そしてその岩の下に、波が白く打ち寄せている。楫取りが、「黒鳥のもとに白い波が打ち寄せている」と言う。この言葉は、別にどうということはないが、しゃれた言葉にも聞こえた。楫取りという身分に似合わないので、心にとまったのだ。

 このように言いながら行くと、船の主人が波を見て、「(土佐の)国を出て以来、海賊が仕返しをするといううわさを心配する上に、海がまた恐ろしく、頭もすっかり白くなってしまった。七十歳、八十歳のようになる原因は海にあるものなのだ。

 私の髪の雪のような白さと磯辺の白波とでは、どちらが白いか、沖の島の番人よ。

 船頭よ、答えておくれ」。

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